アンチェインな生活 海外生活回想録編

もっと自由で有意義な生活を切望する中年男が、若かりし日、アンチェインだったカナダ生活を回想するブログ

両雄激突する!お前!いったい何を考えてるんだよ!

ムーネです。25年以上前のトロントでのワーキングホリデー生活を記憶をたどりながら書いています。それではお楽しみください。

寿司ビストロ「オーシャンブルー」でのバイト生活は本当に楽しかった。
海外生活で日本食が恋しいとか、よくある話だが、まかないで飽きるほど白米や味噌汁、焼き鳥や寿司など食べていたのでそのような悩みはなかった。
逆にバーガーやタコスなどのジャンクフード的な物を普段は好んで食べた。

人間的にもいい奴が多くストレスなど皆無だった。
寿司カウンター軍団の長、ジョニーさんには本当に良くして貰った。プライベートでも、友達にナイトクラブでミキサーをやっている奴がいるから連れってやると、一緒に飲みに行ったことがある。
お互いに夢なども語った。ジョニーさんも現状に満足しているわけではなく、日本に行って超一流の寿司屋でスキルアップしたいと、私に胸の内を語ってくれた。

私のトロントでの親友でもあり悪友でもあったサトルもジョニーさんに負けず劣らず良い奴だった。
キッチンではサトルと中国人軍団達がいつも楽しそうにやっていた。
キッチンには常に香港歌手の歌う、甘ったるい曲が流れていて、サトルと中国人軍団達が聞き惚れていた。

私も子供の頃、Mr.booの中国語の主題歌にドハマリしてシングルレコードを擦りきれるまで聴いたので、サトルの気持ちも1㎜くらいは理解できた。
(香港コメディー映画、Mr.booを観たときのない人は観てみよう!必ず日本語吹き替え版を観てくれよ!)

そんな私にとって大切な2人は犬猿の仲だった。お互いに無視するも、何かあるとイチャモンをつけていた。

「マサ坊!何とかしろよ!サトルのデカイ態度!デカイのは体だけにしろって!」

「マサ坊!ジョニー何とかしてくれよ!俺のこと目の敵にしやがってよ!奴みたいな細かい男は大嫌いなんだよ!」

それぞれが事あるごとに、私に文句を言っていた。それを聞いていた私は、いつも思っていた。
「あんたらの言い分は分かった!お互いに水と油みたいなもんだけど、何とか仲良くやってくれんかな〜」

そんな両雄が激突する日は、そう遠くはなかった。

急な事だったが、ホールを束ねる店長が、日本へ帰ることになった。実質的にNo.2だったジョニーさんが後任の店長が決まるまで、ホールも見ることになった。

ここぞとばかりに、香港お姫様キャラのキャンディーがしゃしゃり出てきた。

「店長がいないってことは、私が実質的なホールのNo.1よね!そうでしょ!ジョニーさん!そうよね?」

こんなやり取りがあったか分からないが、キャンディーがホールを仕切りだした。
ワーキングホリデー女子達の怒号が飛んだのは言うまでもない。

そんなこともあって、この頃のジョニーさんはイライラしていた。後任の店長が決まらず、本部の人間に怒っていたからだ。

ある日、みんなでまかないを食べていると、事件は勃発した。
ジョニーさん、サトルの両雄が些細な事でやりあったのだ。
口の聞き方がなってない、飯の食べ方が汚いとか、そんな類いだったと思う。

サトルが暴走トラック一歩手前まで、なりかけたが、私や中国人キッチン軍団の懸命な制止があり、それは免れた。

数日後、サトルにドーナツshopへ呼び出された。サトルは神妙な面持ちをしていた。

「マサ坊よ〜。オーシャンブルー辞めようと思っている。ジョニーにケンカ売っちまったしよ〜。辞めるには丁度いいタイミングだと思う」

「辞めて、金は大丈夫なのか?」

「親父からの援助もあるし、何とかなると思う」

サトルの意志は固かった。私も止める気はなかった。

「それに、もう1つ問題があってよ!」

「なんだよ?」

「クレイグの禿がよ!もう君とは住むことができない!出て行ってくれないか!だってよ!」

クレイグさんとミュージックビデオのバイトに行った時に「彼と一緒に住んでいると生きた心地がしないよ」と笑いながら言っていたのは本心だったのかと思った。

「そういうことで、1ヶ月以内に新しい住居も探さなければならなくなった」

「お前にお願いがあるんだ」

「少し金貸してくれないか?」

「何でだ?」

「彼女と国際電話で話しすぎた」

サトルの長時間国際電話話す男は治ってなかった。あれだけ気をつけろと言ったのに!呆れるしかなかった。

「悪いが、金は貸せんぞ!俺も余裕があるわけじゃないからな!」

「わかった」

数日後、サトルはオーシャンブルーを辞めた。中国人キッチン軍団からしつこいくらい引き留め工作を受けたが、ダメだった。

サトルのいなくなったオーシャンブルーは気が抜けた炭酸飲料みたいなものだった。
キッチンから笑いが消えた。
私も淡々と巻物を作り続けるだけだった。
つづく