男気溢れるハードな奴達!貴方には一張羅があるか!
ムーネです。25年以上前のトロントでのワーキングホリデー生活を記憶をたどりながら書いてます。それではお楽しみください。
私はジャパレス「日本の心」、「浮世絵」を立て続けに辞めることとなった。
生活費に余裕はないが、困ることはなかった。今後のお楽しみ旅行を考えるとバイトは必須だったので、私は早くもバイト探しに動いていた。
部屋でゆっくりしていると、小腹が空いたのでキッチンへ向かった。
キッチンに行くと、ケベックからの流れ者で元タクシー運転手のネイサンが料理を作っていた。
ネイサンが何を作っているか興味があったので、のぞいてみると目玉焼きを焼いていた。それは見事なまでの芸術的なサニーサイドアップだった。
私からしてみれば、目玉焼きなんて焼けばいいだけだろ?と思ってしまうが、神経質なネイサンは時間をかけて、弱火でじっくりと焼いていた。それはもうシチューでもコトコト煮込んでるのか?といった火力だった。
ネイサンが話しかけてきた。
「ムーネ、飯を食べたら俺の部屋に来ないか?君に見せたいものがあるんだ」
何かは分からないが、面白い物でも見せてくれるらしい。せっかく誘ってくれたので行くことにした。
しばらくしてからネイサンの部屋に行ってみると、ベッドの上にコレクションらしきTシャツが几帳面に並べられていた。
よくバイク乗りの荒くれ者が着る黒いTシャツだ。
ドクロ、ローンウルフ、イーグルなど、これでもかと男気溢れるハードなTシャツが几帳面に並べられていた。
ネイサンが自慢気な顔で言った。
「いいだろ〜俺のコレクションだ!」
Tシャツに描かれたウルフやイーグルなどを自慢の息子のように私に見せた。
たかがTシャツと思うかもしれないが、ネイサンの気持ちが痛いほど理解できた。
何故ならば、私にも思い入れのあるTシャツがあったからだ。
中学時代に買ったTシャツを余りにも気に入りすぎて10年以上着ていた。
それはロックグループ、ヴァンヘイレンのアルバム「1984」に描かれた「タバコを吸う天使」のTシャツだった。
「1984」と言えばロック史上に燦然と輝く名盤であるが、ジャケットもインパクトがあって、これまた良い。
中坊だった私は「タバコを吸う天使」のジャケを見て「かっこいいな〜」と目を輝かせていた。
古本と楽器の街、お茶の水にあるショップに天使のTシャツが置いてあると知り、なけなしの小遣いを持って買いに走った記憶がある。
「タバコを吸う天使」Tシャツを手に入れた中坊の私は、それを一張羅とした。
その後、「タバコを吸う天使」Tシャツは長い年月をかけて私に着倒され、ボロボロとなった。
そんなことからネイサンがベッドにTシャツを並べて、自慢気に語るのが理解できた。
「ネイサン、バイク乗っていたの?」
「ケベックにいた頃は乗っていたよ」
「ケベックでは何をやってた?」
「タクシーの運転手だ。あの仕事はもう懲り懲りだ!」
「今は何をやってるんだ?」
「無職だ。国から金貰って、職業訓練施設に通っている」
ネイサンは色々と語ってくれた。私は「アリガトウ」と言って部屋へ戻った。
その後このネイサンと一悶着あるとは、この時は知る由もありませんでした。
つづく