遊園地で遊ぶ諸君!俺達のレゲエ魂を聞いてくれ!
ムーネです。25年以上前のトロントでのワーキングホリデー生活を記憶をたどりながら書いています。どうぞお楽しみください。
夏が終わった。トロントでのワーキングホリデー生活も半分が経った。
相変わらず寿司ビストロ「オーシャンブルー」でのバイトは続けていた。
シェアハウスのボロい部屋で休んでいると、レゲエ親父のエソが遊びに来た。
友人のレゲエミュージシャンも一緒だった。
「ムーネ!相談があるんだ」
「俺でよければ聞くよ」
「日本行きの話がでているんだ。どう思う?」
「マジに?いいね!」
「ぶっちゃけ日本のレゲエシーンはどうなんだ?盛り上がっているのか?」
「前にも言ったけど、夏は盛大なイベントで盛り上がるけど、まだマイナーだよね」
友人のレゲエミュージシャンがしゃしゃりでてきた。
「俺はやめとけって言ってるんだ!日本人にジャマイカンレゲエ魂が理解できるのかって!」
「お前は引っ込んでろ!口だすな!」
友人のレゲエミュージシャンがエソの迫力に圧倒され、黙った。
「どんなオファーを受けたの?」
「各地の遊園地やショッピングセンターを回るらしい!成功すれば日本でCDデビューも夢じゃないぞ!」
まるで売れない演歌歌手や若手芸人じゃないか!メジャーではないけれどCDもだしている。若手育成の為にプロデューサーもやっていると聞いた。エソがやる仕事じゃないだろ!この話にきな臭さを感じた。
黙っていられなかったのか、友人がすかさず口を挟んだ。
「連中はお前を騙そうとしているんだ!目を覚ませ!遊園地で俺達のレゲエ魂が受け入れられると思うか?ピエロに成り下がるのか!」
「すっこんでろ!」
エソの顔色が変わった。
「俺達が受け入れられるなら、ピエロにでも何にでもなってやるよ!少しぐらい冷や飯を食ってもいいと思っている。いつか俺達のレゲエ魂が日本で花開けば!日本人のレゲエ好き野郎ムーネに出会ったのも何かの縁だと思っている。ジャマイカと同じビッグアイランド日本にレゲエを広めてやる!」
「悪かった、エソ。お前を信じてやってやるぜ!その代わり着ぐるみだけはゴメンだぜ!」
「バカ野郎〜!俺だって着ぐるみなんて着て歌いたくね〜わ!」
くだらないジョークのおかげで場の空気が和んだ。私もエソの日本での活動には大賛成だった。演歌魂が根付く日本でレゲエを広めるのは簡単なことじゃないと思った。このレゲエ親父と日本でバカやれると思うとワクワクが止まらなかった。私もできるだけサポートしたいと思った。
エソの友人が私に話し掛けてきた。
「日本人、ムーネとか言ったな!お前も相当なレゲエ通らしいな!レゲエ魂を継承したいなら俺のCDを聞きなさい!」
エソの友人が自分のCDを売りつけてきた。
「エソの友人だから特別に10ドルでいいよ!」
現金な奴だな〜、さっきは日本人にジャマイカンレゲエ魂が理解できるのかって言ってたよな〜誰が買うか!と思った。
半ば強引に買わされた。
アルバムの題名は「俺達は止まらない」だった。ダサい題名だなと思ったが、1曲目はインパクトがあり、いい曲だった。
日本に帰っても何回か聴いたが、今はホコリがかぶった状態でどこか奥底にあると思う。
後日、エソから残念な報告があった。ミュージシャン仲間や本国ジャマイカの家族から反対をされ、この話は断念したらしい。
落ち込んでいると思ったが、いつか日本でレゲエ魂を炸裂してやると意気込んでいたので安堵した。
私にも微力ではあるが、エソが日本で活躍できる為の秘策はあった。いつかお話ししたいと思う。
つづく